イトウ保護連絡協議会

Japanese Huchen Conservation Network

陸上自衛隊矢臼別演習場の砂防ダム問題

第7回別寒辺牛川水系トライベツ川スリットダム視察報告

視 察 日:2009年8月25日
天  候:曇
参 加 者:6名

目  的:矢臼別演習場内の別寒辺牛川水系トライベツ川スリットダムの現況確認を行った。特に植生とダム堤下流の現況に注目した。

ダム堤から上流を見る。河道は安定し、川底は粒径のやや大きな礫。

さらに上流。

左岸側。植生は安定している。所々で湧水がある。

ダム堤から下流を見る。連続的な降雨により増水して、下流全般で、冠水している。植生は、根をはり安定してきた。

左岸。魚道跡の水没コンクリート基礎は、土砂で埋め尽くされている。本流と思われる左岸は、このコンクリート基礎により流れを遮られ、流水が悪く、水量も少なくなっている。

左岸下流。目視によりイトウ稚魚、数匹を確認できた。

下流からダムを見る。右奥が魚道跡。左岸側は川幅が狭く、水量も少なかった。

下流では、スリット域とともに、ヤマベ・アメマス多数(釣り具使用)。特に、ヤマベは、去年より倍増していた。

スリット直下付近は最も深く、1mをこえていた。


トライベツスリットダム調査表

▼調査年月日:2009年8月25日
▼天気:曇


クリックで拡大します。
調査地点 水温 水深 川幅 流幅 備考
A1 11 50 260   川底は礫
A2 11 40 360   川底は礫
A3 11 15 -   植生
A4 11 33 200    
B1 13 64 200   ヤマベ、アメマス
B2 12 65    
B3 - - -   土砂堆積
B4 12 15   180 カワシンジュガイ、川底は礫
B5 12 36 200   イトウ稚魚
B6 12 44 200    
B7 12 45 200   横工撤去
B8 12 32 200   横工撤去
B9 12 36 300   ヤマベ、アメマス
B10 12 10   250  
B11 12 36   - 冠水
B12 12 29   - 冠水
B13 12 39   200 横工移設
B14 12 32   200  

▼トライベツ川砂防ダムの上、下流域の植生遷移


図.トライベツ川砂防ダムの上、下流の植生(2009.8.25)
A:ヤチハンノキ-ケヤマハンノキ群落
B:オオカサスゲ-エゾアブラガヤ群落
C:イ-アオコウガイゼキショウ群落
D:ヒロハドジョウツナギ-オオカサスゲ群落
下流域(E~H地区)
E,E’:ミゾソバ-イ-ヒロハドジョウツナギ-クサヨシ-ヒメウキガヤ群落
F:ミゾソバ-ヒロハドジョウツナギ-イ群落
G,H:ヒメウキガヤ-ミゾソバ-オオカサスゲ-ヒロハドジョウツナギ群落

 トライベツ川砂防ダムに開けられたスリットの効果をモニタリングするために「道東のイトウを守る会」ではトライベツ川砂防ダムのスリット化後に継続して調査を行ってきた。第1回は2007年2月で、その後2009年5月の第6回目まで毎年2回以上調査を行ってきている。今回は2009年8月25日(火)に現地調査を行った。昨年に引き続き植生の調査も行ったので、昨年8月の調査との比較で植生の回復について報告する。調査は午前10:00頃から11:30頃までトライベツ川のスリット化後のダムの上、下流で行った。

 ダム上流では前回までの調査で河道が形成されて河道の両側に植物群落が形成されていたが、今回はそれが更に進んでより安定した群落になっていた。図に示したようにダムから最も遠い自然河道から横堤の入り口にあたるところではヤチハンノキとケヤマハンノキの群落が形成されていた。樹高は両種とも4m以上あり、昨年の調査では樹高が2.5m位であったので1年間で約1.5m生長したことになる。上流からダムに向かって左側(左岸)のダム近くでは湿地となっていたが、河床は砂礫に覆われており、河岸が昨年と比べて一段と安定して乾燥状態にあった。植生としてはダムに向かってオオカサスゲ、エゾアブラガヤ、イ、ミゾソバなどは昨年の調査と同じであるが、そのほかヒロハドジョウツナギ、ハンゴンソウ、ヒメウキヤガラ、オオヨモギ、クサヨシなどが見られた。

 ダムの下流では以前は殆ど植物群落は形成されていなかったが、2008年5月から土砂の堆積したところに新たに植物群落が形成され始めた。2008年8月の調査ではダムの近くと左岸付近にダムの付近にヒメコウガイゼキショウやミゾソバが群落をつくり、ミズハコベも小群落をつくっていたが、今回の調査でもほぼ同じところに植物群落が形成されていた。E地区ではヒメコウガイゼキショウに代わってヒロハドジョウツナギやクサヨシ、ヒメウキガヤが生育しており、植生の遷移がみられた。他の部分でもヒメコウガイゼキショウやアオコウガイゼキショウに代わってヒメウキガヤやヒロハドジョウツナギ、オオカサスゲに遷移していた。これらの植生はダム上流域でみられた植物種と殆ど同じ構成種からなり、ダム下流域でも今後植生が安定していけばダム上流域と同じような植生に遷移していくものと予想される。

写真1.砂防ダム上流域。ここはヤチハンノキやケヤマハンノキが群落をつくり樹高4mを超えていた。

写真2.上流側から砂防ダムを見たところ。上流部は河道が安定しており、植生も昨年とあまり変わらないが、ハンゴウソウなども入ってきて遷移が進んできている。

写真3.砂防ダム下流域ではミゾソバやヒロハドジョウツナギなどが群落をつくっていた。

写真4.砂防ダム下流域に新たに見られたヒメウキガヤ群落。


▼まとめ
 今回は、前回(5月25日)視察時と大きな変化はなかった。下流は、左岸の本流以外にも、大きく3本に分かれ、中ほどで左右両岸の流れに合流している。水没しているコンクリート基礎に当たった水流は、旧魚道口閉鎖部分に土砂を堆積させ、コンクリート基礎を埋め尽くしている。このことにより、左岸本流の流れが遮られ、流水が悪く、水量も少なくなっている。やはり、コンクリート部分の除去もしくは切断が必要と思われる。

 又、下流の本流では、イトウの稚魚数匹を確認できた。ヤマベも去年より倍増していた。上流は、年をおうごとに、植生も含めて安定してきている。

 次回視察は、2010年5月を予定している。

道東のイトウを守る会(植生:神田房行、写真:飯田弘己、作図:元内孝義、文責:田中明子)