イトウは今まさに激減し絶滅の危険にさらされています。

| Home | イトウ保護のための宣言 | 加盟団体のご紹介 | イトウ保護連絡協議会とは? |

特集/矢臼別演習場内の砂防ダム問題の目次


陸上自衛隊矢臼別演習場付近の
風蓮川に生息する絶滅危惧種イトウについて

野本和宏
北海道大学大学院環境科学院博士課程
イトウ保護連絡協議会・風蓮川イトウ調査グループ

2006年8月16日


 2003年、風蓮川の支流Dで撮影された、婚姻色も鮮やかなイトウ親魚。(「風蓮川を守る会」提供)

 風蓮川水系のイトウ個体群については、繁殖環境の多くが陸上自衛隊矢臼別演習場内に含まれるため、これまで十分な調査研究は行なわれてこなかった。筆者らは2005年と2006年のイトウ繁殖期に合わせて、同演習場を管理する陸上自衛隊別海駐屯地の許可を得て同演習場内外のいくつかの風蓮川水系河川を踏査し、イトウ繁殖状況を調査した。以下に概要を述べる。なお、イトウは絶滅が危惧され、とりわけ繁殖期の捕獲圧力に対してきわめて脆弱であることから、本報告では、乱獲を招かないよう、調査河川名や位置は明らかにしていない。

【調査地の概況】
 風蓮川は、中標津町の標高180m付近から東流し、別海町・根室市境を流れて風蓮湖に注ぐ。幹川延長約81km、流域面積584平方km。陸上自衛隊矢臼別演習場は別海町・浜中町・厚岸町にまたがる日本最大の自衛隊演習場で、面積は約168平方km。風蓮川本流と同演習場北縁境界線はほぼ重複しており、南側から本流に注ぐ大小の支流は水源を同演習場内に頼っている。演習場内の支流全てに砂防ダムが設置されている。

【調査方法】
 イトウ繁殖期に合わせて、イトウ繁殖に適した環境を踏査した。イトウ産卵床を目視により位置などを記録し、必要に応じて産卵床の一部を掘って産卵を確認した。また一部の卵を採取・保存した。さらに、孵化・浮上後の稚魚を電気漁具などを用いて捕獲し、記録した。これとは別に、砂防ダムなどの河川構造物を記録した。さらに、流域住民らから目撃情報などを収集した。

【結果】
 調査した5支流のうち、3支流でイトウ繁殖を確認した。いずれも砂防ダム近傍で、これらダムのうち、2基には魚道がなく、ダム上流域での繁殖は確認できなかった。また別の1河川で、イトウ親魚生息の可能性を強く示唆する情報を得たが、繁殖確認はできなかった。各支流の調査結果を以下に述べる(略)。

【まとめ】
 別寒辺牛川水系と同様、風蓮川水系においても、同演習場内は農地開発を免れたために集水域がほとんど手つかずのままに残されており、両水系のイトウの主要な繁殖場所となっている。ただし、現状ではそれらの演習場内の風蓮川水系支流全てにダムが設置されており、イトウ個体群の自然繁殖に極めて深刻な悪影響を与えていると考えられる。
 本種は支流レベルで高い母川回帰性を有していることが示唆され(江戸ほか、2002)、ダムなどによって繁殖環境を失った支流個体群がその後、他支流に移動して繁殖に参加する可能性は低いと考えられる。
 別寒辺牛川水系のダム問題では、幸いイトウ個体群に深刻な悪影響をもたらす前に建設計画の中止、既設ダムの改修が決定されたが、風蓮川水系においては、ダム建設は1980年代から進み、同演習場内の支流全てに砂防ダムがすでに設置されており、風蓮川水系のイトウ個体群に極めて深刻な悪影響を与えている。砂防ダム建設から20年近くを経た支流では、ダムが設置された当初から繁殖が阻害され、世代交代が行われていないと考えられる。各支流産の生存個体が死に絶えれば、その時点で個体群が絶滅してしまうだろう。今後、対応が遅れれば遅れるほど、取り返しのつかない事態を招くと予想される。
 反対に、砂防ダム問題さえクリアして演習場内の良好な環境を繁殖場所としてうまく機能させれば、別寒辺牛川水系と同様に風蓮川水系のイトウ個体群も永く将来にわたって存続させることができると考えられる。

【参考文献】 江戸謙顕ほか『地球環境サイエンスシリーズ8 生物と環境』(三共出版、 2002年)

【警告】
 本記事の著作権は野本和宏に帰属します。本記事の引用や本ページへのリンクを希望されるかたは、野本和宏までご連絡下さい。 (C) 2006 Nomoto Kazuhiro all rights reserved.

引用やページリンクのご希望は野本和宏

制作・著作/イトウ保護連絡協議会
(C) 2006 Japanese Huchen Cnservation Network. all rights reserved.