イトウ保護連絡協議会

Japanese Huchen Conservation Network

陸上自衛隊矢臼別演習場の砂防ダム問題

第13回別寒辺牛川水系トライベツ川スリットダム
第5回風蓮川水系玉川流域第2号ダム
第5回楓沢流域第2号ダム 視察報告

視察日:2012年8月14 日(火)
天 候:晴
参加者:8名(内報道2名)


目 的:矢臼別演習場内のトライベツ川、玉川・楓沢各スリットダムについて現況確認を行った。今回は、夏場の植生調査を行なった。トライベツ川は、特にダムの下流域の河道の現況に注目した。


▼トライベツ川スリットダム

トライベツ川スリットダム トライベツ川スリットダム トライベツ川スリットダム植生図トライベツ川スリットダム周辺の植生図。クリックすると拡大します。
ダム堤から下流を見る。植生・河道ともに安定している。 ダム堤から上流域を見る。左岸の流れはない。
トライベツ川スリットダム トライベツ川スリットダム
下流からダムを見る。
トライベツ川スリットダム トライベツ川スリットダム
今回の下流中央の流れ。水深12cm。右岸貯まりと分ければ本流となるだろう。 今年5月の下流中央の流れ。

トライベツ川砂防ダムの上、下流域の植生遷移
―2012年度モニタリング調査結果から―

北海道教育大学・釧路校 神田 房行

 トライベツ川砂防ダムに開けられたスリットの効果をモニタリングするために「道東のイトウを守る会」ではトライベツ川砂防ダムのスリット化後に継続して調査を行ってきた。第1回は2007年で、その後毎年調査を行ってきている。2012年度も8月14日(火)に現地調査を行った。植生調査では2008年8月から通算5回目のモニタリング調査を行った。

 ダム上流では、河道の両側に植物群落が形成されており安定した群落が形成されてきた。上流部の横堤の始まる所にはヤチハンノキとケヤマハンノキの群落が形成され、毎年樹高が伸びている。現在では両種とも6m前後ある。2011年の調査でも既に5m位あったので、この1年で樹高はそれほど高くなっていないが、樹高、面積ともに徐々に増大している。右岸側のC地区にもケヤマハンノキガ出現しだしている。

トライベツ川砂防ダムの上・下流の植生(2012.8.14)

上流域(A~C地区)
A:ヤチハンノキ-ケヤマハンノキ群落
B:オオカサスゲ-クサヨシ群落
C:オオカサスゲ-ヒロハドジョウツナギ-ハンゴンソウ群落
下流域(D~G地区)
D:オオカサスゲ-クサヨシ-ヒロハドジョウ
ツナギ群落
E:ヒメウキガヤ群落
F:オオカサスゲ-ヒメウキガヤ-ヒロハドジ
ョウツナギ群落
G:ヒロハドジョウツナギ-オオカサスゲ群落


トライベツ川砂防ダムの上・下流の植生(2012.8.14)
クリックで拡大します。

 左岸のダム近くのB地区では以前はぬかるんだ湿地となっていたが、ここ3年ほどで一段と安定した植生となっている。植生としてはダムに向かってオオカサスゲ、ヒロハドジョウツナギ、エゾアブラガガヤが優占しており、その他、水際ではヒメウキガヤやミゾソバなどが見られる。C地区ではより乾燥した状態になっており、オオカサスゲやクサヨシ、ヒロハドジョウツナギエゾアブラガヤの他にハンゴンソウ、オオヨモギ、エゾトリカブトなどが入っていた。昨年の調査と基本的には同じ植生であるが、昨年よりも更に一層安定し、草丈も高く、乾燥した所に成立する植生になっていた。

 ダムの下流では2008年5月から土砂の堆積したところに新たに植物群落が形成され始め、2008年8月の調査ではダムの近くと左岸付近に小群落をつくっていたが、2010年の調査ではこれらの地域ではオオカサスゲ、ミゾソバ、ヒロハドジョウツナゲ、クサヨシ、ヒメウキガヤが優占して繁茂しておりより安定した群落となっていた。昨年からは更に安定した植生となっており、オオカサスゲ、ヒロハドジョウツナギ、クサヨシ、ミゾソバ、ヒメウキガヤが優先していた。今年も植生はほとんど変わらないが、草丈が一層高くなっていた。

 昨年は下流部で土嚢が積み上げられて流路が変更されていたが、植生としては図のF、G地区で植生の範囲が大きくなって、左岸沿いの流れが殆ど無くなっていた。F、G地区の植生はオオカサスゲ、ヒロハドジョウツナギ、ミゾソバ、クサヨシなどであり、水辺ではヒメウキガヤが生育していた。E地区では昨年同様、ヒメウキガヤが群落をつくっていた。F、G地区でも草丈が高くなり、面積も昨年より拡大していた。

 しかしながら植生の見られない所は水深の浅い広い開水面となっており、イトウの遡上の面からは良い環境とは言えない状況である。


▼玉川流域第1号スリットダム

玉川流域1号スリットダム 玉川流域1号スリットダム 玉川流域1号スリットダム周辺の植生図玉川流域1号スリットダム周辺の植生図。クリックすると拡大します。
下流からスリットダムを見る。増水がひどく河道の土嚢も水没。
ダム堤から下流を見る。
玉川流域1号スリットダム 玉川流域1号スリットダム
ダム堤から上流を見る。 さらに上流。

▼楓沢流域第2号スリットダム

楓沢流域第2号スリットダム 楓沢流域第2号スリットダム 楓沢流域2号スリットダム周辺の植生図楓沢流域2号スリットダム周辺の植生図。クリックすると拡大します。
下流からスリットダムを見る。
ダム堤から下流を見る。
楓沢流域第2号スリットダム 楓沢流域第2号スリットダム
スリットから上流を見る。 更に上流。河道は安定している。

風蓮川支流玉川流域第1号砂防ダムと
楓沢流域第2号砂防ダムの 上・下流域の植生 ―2012年夏の調査―

北海道教育大学・釧路校 神田 房行

風蓮川支流玉川流域第1号砂防ダム

 風蓮川の支流である玉川流域の第1号砂防ダムのスリットは2011年2-3月に開けられた。今回2012年8月14日にスリット化後の2シーズン目の砂防ダムの上・下流域の植生調査を行った。

 上流域の高い方の平地にはクサヨシが生い茂っていた。ダムよりの一段と低くなっている所は昨年の植生は未発達の状態であったが、今年はクサヨシ、ヒロハドジョウツナギ、ハンゴンソウ、エゾシロネ、キツネノボタンなどが繁茂しており、安定した植生になっていた。最下段のダムに近いところもイ、ヒロハドジョウツナギ、ミゾソバ、オオカサスゲなどの湿地の植生になって安定した植生となっていた。ただ、オオアワダチソウ、セイヨウノコギリソウ、アメリカオニアザミなどの外来種も進入していた。昨年気になっていた、水路の法面にもシロツメクサなどが生育しており、土砂の流出もある程度防げる状態になっていた。

 下流域ではこの日は水位が非常に高く、コンクリートの水路の上あふれた状態で水路ができていた。周辺の植生はオオカサスゲ、クサヨシ、ヨシ、ヒロハドジョウツナギなどが生い茂っており、昨年とほとんど同じ植生となっていた。

 上、下流域ともに植生は安定してきており、イトウの遡上には問題ないものと思われる。ただ、今回の調査時のように水量が多く、オーバーフローしているような状態が春先のイトウ遡上時に起こると、イトウが順調に遡上できるかどうか若干の懸念がある。

風蓮川支流楓沢流域第2号砂防ダム

 風蓮川の支流である楓沢流域の第2号砂防ダムのスリットも2011年2-3月に開けられた。スリットの効果をモニタリングするために楓沢流域第2号砂防ダムの上・下流域の植生調査を行った。

 上流域にはヨシが群落をつくっており、さらに、イ、オオアワガエリ、カモガヤ、エゾシロネ、オオカワズスゲやヒロハドジョウツナギなどが群落を作っていた。全体として乾燥した感じの植生となっていた。下流域ではオオカサスゲ、ヨシ、ヒロハドジョウツナギなどが生い茂っており、昨年と基本的に変化は見られなかった。従って、楓沢流域の第2号砂防ダムの上下流域ともイトウの遡上には問題ないものと思われる。


▼まとめ

 トライベツスリットダムの上流は河道も安定し、植生も密生しており良好な状態になっている。しかし、下流については、春同様安定していない。左岸の流れは、完全にとまり水は流れていない。本流は、スリットより中央部の土嚢に沿って流れ、横工の手前で左折して左岸の横堤より下流の流れ出しに向かっているが、流れの一部が中央部の土嚢に沿って横工の間を通り下流に流れている。

 スリットの出口より一部の流水は、ダム本体に沿って右岸の壁に向かい僅かながら下流に流れている。

 下流中央部の止水域は泥の体積で、水温も他の地点より3度Cも高く異常である。本流部も土砂が堆積して全体に浅くなっている。水深は12cmである。

 春の考察でも書いたが、下流の本流形成が急務と思われる。まず、ダム直下から右岸への流れを止め、流れを中央に導き左岸側に流すべく、中央に設置された土嚢をさらに高く積み、堆積している土砂を取り除く必要があると思われる。

 更に、危惧すべきことがある。トライベツに着いた時、タンチョウヅルのつがいがダム下流右岸側の溜まりにいて、我々が着いた時に飛び立ったが、イトウの稚魚が捕食されていると思われる。アオサギも確認されており、本流形成はやはり急務であろう。

 玉川・楓沢はスリットにより河道も安定し、川底は礫となり、状態は良くなっている。

 今回は、北海道防衛局の課長以下4名の方が、我々の呼び掛けに応じて参加いただき、視察に同行してくれた。あらためてお礼を申し上げたい。トライベツダム下流の問題意識を我々と共に共有いただけたと思う。今後、素早い問題の解決を期待したい。

道東のイトウを守る会
植生報告:神田 房行
作図:元内 孝義
写真:飯田 弘己
文責:田中 正