イトウ保護連絡協議会

Japanese Huchen Conservation Network

陸上自衛隊矢臼別演習場の砂防ダム問題

第22回別寒辺牛川水系トライベツ川スリットダム

第13回風蓮川水系玉川流域第1号ダム・楓沢流域第2号ダム視察報告

視察日:2016年8月19日(金)
天 候:曇り
参加者:9名(うち報道2名)

目 的:矢臼別演習場内のトライベツ川、玉川・楓沢各スリットダムについて現況確認を行った。トライベツ川はダムの下流域の本流の形成状況、玉川・楓沢は下流の砂州及び川の流れに注目した。今回は、夏場の植生調査を行なった。


▼トライベツ川スリットダム

トライベツ側スリットダム

 

トライベツ側スリットダム
ダム堤から上流域を見る。 下流からダム堤を見る。

トライベツ川砂防ダム上・下流域の植生―2016年夏の調査―

道東のイトウを守る会 代表 神田房行

トライベツ川砂防ダムに開けられたスリットの効果をモニタリングするために「道東のイトウを守る会」ではトライベツ川砂防ダムのスリット化後2007年から継続して調査を行ってきた。2016年度も8月19日(金)に現地調査を行った。植生調査では2008年8月から通算9回目のモニタリング調査を行った。今回は8月17日の台風の影響で、大雨があり、いつもより40cmほど増水していた。

植生ではダム上流(写真左)では、河道の両側にますます安定した植物群落が形成されていた。左岸のヤチハンノキとケヤマハンノキは森林化し、樹高6-7mにもなっていた。更にダム近くにもヤチハンノキが進出してきており、目で確認できる個体が23本であった。昨年より倍以上の本数である。左岸では今後樹林化がさらに進むものと思われる。

ダムの下流(写真右)では2008年頃から土砂の堆積したところに新たに植物群落が形成され始め、ここ数年更に安定した植生となっており、オオカサスゲ、ヒロハドジョウツナギ、クサヨシなどが優占していた。その他ハンゴンソウ、ミゾソハ、ヒメウキガヤなどが目立った。植生は昨年とほとんど変わらないが、草丈が高く、より安定した植生となっていた。

2014年、下流域の横工が撤去され、中央部を直線的に河川水が流れるようになり、昨年の視察でも中央部にしっかりとした流路ができたことが確認された。今回はさらにこの流路がしっかりと安定してきている。全体としてダムの上下流ともイトウの遡上環境が良好なものになったものと思われる。


トライベツ川スリットダム堤直下の景観の変化(2011年~2016年)

トライベツ側スリットダム トライベツ側スリットダム
2011年8月 2012年8月
トライベツ側スリットダム トライベツ側スリットダム
2013年8月 2014年8月
トライベツ側スリットダム トライベツ側スリットダム
2015年8月 2016年8月

トライベツ川スリットダム平面図(クリックで拡大)

トライベツ側スリットダム平面図


 

▼玉川流域第1号スリットダム

玉川流域第1号スリットダム 玉川流域第1号スリットダム
ダム堤から下流を見る。 ダム堤の左岸側から下流を見る
玉川流域第1号スリットダム 玉川流域第1号スリットダム
ダム堤から上流を見る。 本流となった左岸の流れ。

風蓮川支流玉川流域第1号砂防ダム上・下流域の植生―2016年夏の調査―

道東のイトウを守る会 代表 神田房行

風蓮川の支流である玉川流域の第1号砂防ダムのスリットは2011年2-3月に開けられた。今回2016年8月19日にスリット化後の6シーズン目の砂防ダムの上・下流域の植生調査を行った。

下流域ではこの日は大雨の影響で水位が高かった。下流部ではオオアワダチソウが目立った。植生としてヨシ、オオカサスゲ、ヒロハドジョウツナギなどが優占していた。2014年に増大していた池状の水たまりは左岸側で大きな流路となっておりイトウがより遡上しやすい環境となっていた。

上流域は昨年同様に一面のオオアワダチソウ群落となっていた。流路は左右岸が植生で覆われて、しっかりとしており、安定していた。


 

玉川流域第1号スリットダム平面図(クリックで拡大)

玉川流域第1号スリットダム平面図


 

▼楓沢流域第2号スリットダム

楓沢流域第2号スリットダム 楓沢流域第2号スリットダム
下流からスリットダムを見る
楓沢流域第2号スリットダム
ダム堤から上流を見る。 ダム堤から下流を見る。

風蓮川支流楓沢流域第2号砂防ダム上・下流域の植生―2016年夏の調査―

道東のイトウを守る会 代表 神田房行

風蓮川の支流である楓沢流域の第2号砂防ダムのスリットも2011年玉川と同じ時期に開けられた。ここも台風の影響で増水しており、1m80cm位まで増水した跡が残っていた当日の水深は70cm位あり、いつもよりかなり深かった。

上流域には昨年と同様に安定した、オオカサスゲ、クサヨシ、オオアワダチソウ等からなる植物群落が形成されていた。ただ、アメリカオニアザミなどの外来植物がかなり多くなってきていた。下流域ではオオカサスゲ、クサヨシなどが生い茂っており、昨年と同じ植生で、変化は見られなかった。砂防ダムの上下流域とも現状ではイトウの遡上に問題ないものと思われる。


楓沢流域第2号スリットダム平面図(クリックで拡大)

楓沢流域第2号スリットダム平面図


 

▼まとめ

トライベツスリットダムの上流は良好な状態を保っている。下流は、2014年に横工が撤去され、河川の真ん中に本流が形成されており安定した状態といえる。右岸側のため池状態も、将来的には植物の侵入により解消されると思われる。

玉川流域第1号スリットダムは、下流にできた湾曲方の堆積土砂は現状を維持している。右岸側に水草が繁茂し、水の流れはなくなっている。左岸側は、勢いよく水も流れており本流が形成されている。上流は安定。

楓沢流域第2号スリットダムは、上下流共に安定している。

3河川ともに、イトウの生息環境として良くなってきている。

道東のイトウを守る会


植生報告:神田 房行
作図:元内 孝義
写真:飯田 弘己
文責:田中 正