第8回北海道イトウ保護フォーラム in 朱鞠内湖
「イトウ保護、釣り人ともに」
講演1
イトウ資源の管理は釣り人とともに
川村洋司
北海道立水産孵化場内水面資源部主任研究員
釣りで釣られるイトウは資源のごく一部で、あまり資源に影響は無いと考えている釣り人がまだまだ多いと言ったら間違っているでしょうか。
勿論イトウ資源が現在の様な危機的な状況を迎えるに至った主要な原因が、河川とその周辺域を含めた生息環境の悪化にあることはもはや誰も異論を唱えることはできず、既に決着済みのことであることは確かです。
しかし、イトウ釣りは資源にあまり影響しないと言えるのでしょうか。昨年初夏の猿払川でのイトウの口内に残された針傷調査の結果からは必ずしもそうとは言えないようです。
猿払川河口域でのイトウ釣りは多分全国的にも有数なキャッチ・アンド・リリース釣り区間といっても良いでしょう。少なくとも昼間の間はほぼ完璧なリリースが全て自主的に行なわれています。
その結果イトウの口内に残された釣りの痕跡(針傷)は意外に多く、5月中旬でと半数以上、6月に入ると釣れたイトウの9割がたの口内に針傷が見られます。中には4個も5個も針傷の残るイトウが見られ、平均すると下流に生息する全てのイトウが1.6~1.7回くらい釣られていることになります。
もし、リリースされていなければ下流に下ったイトウの大部分が失われたことになります。幸いリリースされたことによって生き残っており、その針傷数の分布状況から考えるとリリース後の生残状況は極めて良いと考えられました。
事実、猿払川のイトウ資源は、釣りが極めて盛んで釣獲率も極めて高いと考えられるにも係らず、この20年ほど減っている兆候はありません。何やら矛盾した話しになって来ましたが、結論は以下のとおりです。
・イトウ釣りは資源に大きく影響する可能性が十分にある行為ですが、適切に行なうことによって両立が可能であること。
・資源管理という言葉は資源の利用を前提にした言葉であり、通常一定の漁獲強度を加えることによって資源の評価が可能になるが、イトウの場合は釣りがその手段になりうること。
・したがって、釣りが十分可能な水域においては、釣り人の積極的な関与を通じた資源のモニタリングを行ない、その資源評価を通した資源管理が有効であると考えられること。
全ての場所でこの方法が採用できる訳ではありませんが、イトウ釣りが普通に行なわれている水域では間違いなく有効で強力な両立手段になりうると思います。後は釣り人にもできる簡易なモニタリング方法の開発と、釣り人側の協力体制の構築の問題ではないでしょうか。
かわむら・ひろし
1950年東京生まれ。東京水産大学卒業。道立水産孵化場宗谷支場長などをへて現職。