イトウ保護連絡協議会

Japanese Huchen Conservation Network

陸上自衛隊矢臼別演習場の砂防ダム問題

2003年5月16日

札幌防衛施設局長殿

陸上自衛隊矢臼別演習場内の別寒辺牛川支流における砂防ダム建設事業及びその検討委員会設置に対する質問及び要望書          

イトウ保護連絡協議会
       構成団体
尻別川の未来を考える オビラメの会 (会長 草島清作)
斜里川を考える会 (会長 岡崎義昭)
ソラプチ・イトウの会 (会長 伊藤行浩)
猿払村商工会青年部 (部長 梁田徳雄)
朱鞠内湖淡水漁業協同組合 (組合長 菅原博)
別寒辺牛川流域イトウ保護連絡協議会 (代表 石沢元勝)
別寒辺牛川のイトウを守る会 (代表 山代昭三)
              釧路自然保護協会 (会長 高山末吉)
                      ★本要望書窓口 平田剛士(オビラメの会)

 我々は、北海道内の各地域でイトウの保護活動を行っている団体の連合体で、イトウ保護連絡協議会といいます。表題の件につき、貴職がダム建設の一時中断、検討委員会の設置を決定したことについて、心から歓迎したいと思います。しかしながら、北海道のイトウが絶滅することなく次世代へと伝えられていくことを切に願う我々にとって、現段階で別寒辺牛川のイトウが絶滅の淵から完全に逃れられたと安堵することは到底できません。そこで、当該事業と今回設置が決まった検討委員会に関して、以下の質問及び要望を致します。失礼ながらご回答は本年6月15日までに文書で、上記窓口住所宛にお届け下さい。また、本質問及び要望書と貴職からの返答は、イトウ保護連絡協議会のホームページ上で公開する予定ですので、よろしくお願い致します。

(一)検討委員会の人選と構成
 検討委員の人選は貴職が行ったものと推察するが、どのような基準で選ばれたのか、どのように公平性を期したのか、お答えいただきたい。また、委員の人数、任期、交代の有無等、委員会の構成についても明らかにされたい。

(二)検討委員会での議論の公開
 検討委員会での議論は、具体的なイトウの生息場所等、イトウの乱獲に繋がる恐れのある情報については秘匿事項とし、それ以外は公開されるべきであると考える。そこで、秘匿事項を除く検討委員会の議論については公開が保障されるのか、お答えいただきたい。また、公開が保障される場合、それはどのような方法により実現されるのか、具体的に示されたい。例えば、一般の傍聴が可能なのか、それとも議事録のみが公開されるのか。

(三)検討委員会の権限
 検討委員会が下 した結論に、貴職や厚岸町はどこまで従うのか、また従わない場合はその理由も含めて、具体的にお答えいただきたい。例えば、検討委員会が、砂防ダムの必要性が認められず、既に設置したダムについても撤去すべきと結論した場合、その結論に全面的に従うのか、それともその結論は参考意見として利用されるのみで、当該事業に関する最終的な決定は貴職及び厚岸町が行うのか。

(四)検討委員会による結論提出までの事業中断の保障
 検討委員会が当該事業に関して適切な調査・検討を行い、一定の結論を得るまでには、かなりの時間を要するものと推測される。そこで、検討委員会による結論が提出されるまで、当事業の中断を継続することは保障されるのか。それとも、検討委員会による検討が長期に及んだ場合、検討委員会による結論を待たずして事業を再開することがありうるのか、お答えいただきたい。

(五)土砂流出の根拠
 貴職は、矢臼別演習場における自衛隊等の訓練に伴い降雨等の際に演習場内から下流に土砂が流出する恐れがあることを理由に、当砂防ダムの建設を推進しているとしているが、実際に土砂が流出している、もしくは流出する恐れがあると判断するに至った根拠の全てを提示し、説明していただきたい。例えば、もし実際に別寒辺牛川で土砂の流出量を計測している場合は、その計測法と得られた結果、計測を実施した日時を、また、シミュレーション等で土砂流出量を推定した場合は、その推定に用いたデータと推定法、推定式及び得られた結果等、その一切についての提示及び説明を望む。

(六)土砂流出が砂防ダム建設の理由となる根拠
 貴職は、演習に伴う土砂流出を防止するために、砂防ダムを建設するとしている。しかし、仮に土砂が流れたとしても、もしそれが自然に清浄化される範囲内の量であるならば、そうした土砂流出がダム建設推進の根拠とはなりえないはずである。そもそも河川の機能には、水を流すことはもちろん、土砂を流すことも含まれている。大雨が降れば増水して河川が濁るのは当然の自然現象であり、土砂流出のない河川というのはこの世の中に存在しない。「土砂流出があるからダムを造る」という説明がまかり通るのであれば、この世の中の全ての河川にダムが必要となる。問題とすべきは土砂流出の有無ではなく、土砂流出の量の大小であり、「自然に清浄化される限度を超えた著しい土砂流出により、下流域の人間活動や自然環境に深刻な影響が出ることが予想される、もしくは既に出ている」場合にはじめて、砂防ダムの必要性について議論されるべきであろう。別寒辺牛川の場合、下流域に民家はなく、過去には一度も土砂災害が起きたことがない。また、道東で唯一、イトウ個体群が安定した状態で存続しており、それだけ良好な状態で流域環境が維持されていることを示している。そもそも土砂が大量に流れていれば、イトウの産卵場所は消失してしまい、個体群が安定して存続することはありえない。したがって、現在砂防ダム建設が進められている別寒辺牛川支流において、自然に清浄化される限度を超えた著しい土砂流出があるとは考えにくい。それにもかかわらず、貴職と厚岸町は、砂防ダム等の土砂流出防止のための施設が必要であるとしている。そこで、貴職と厚岸町が、当該河川において、「自然に清浄化される限度を超えた著しい土砂流出により、下流域の人間活動や自然環境に深刻な影響が出ることが予想される、もしくは既に出ている」と判断する具体的、定量的な基準を提示していただきたい。例えば、流出土砂量がここまでなら正常範囲内で、これを超えれば危険であるとする基準を各支流ごとに数値等で具体的に示されたい。また、その基準を採用する根拠も説明していただきたい。

(七)検討委員会で検討される内容
 検討委員会では砂防ダムがイトウやカキ、流域の自然環境等に与える影響を調査・検討すると、報道等が伝えている。しかし、貴職や厚岸町はこれまでに当砂防ダムの必要性について明快な根拠を示していない。したがって、検討委員会で最優先に検討すべきは、「ダムによる影響」以前に「そもそもこの砂防ダムは本当に必要なのか」という、砂防ダムの必要性に関する議論であると考えられる。そこで、こうした砂防ダムの必要性に関する議論は検討委員会の検討課題として取り上げられるのか、お答えいただきたい。そもそもダムが必要でなければ、ダムがイトウやカキ、流域の自然環境に与える影響について調査をする必要はない。仮にダムがイトウやカキ等に影響しないと検討委員会が結論しても、ダム建設の必要性がなければ、ダム建設は単なる税金の無駄遣いである。

(八)実施される調査の内容と期間
 検討委員会の下で実施される調査の結果によりダムの是非が問われることから、調査の客観性、信憑性を維持することは極めて重要である。今年度から各種調査を開始するものと思われるが、どのような内容で、どのくらいの期間に渡り行われる予定なのか、大まかでもよいのでお答えいただきたい。まず、土砂流出に関して、単に土砂流出の有無だけではなく、限度を超えた著しい土砂流出の有無を検出するための定量調査は行われるのか、行われるとしたらどのような方法を用いるのか、お答えいただきたい。次に、イトウに関して、別寒辺牛川のイトウの産卵は4月下旬には終了するが、今年度に関しては調査準備に十分な時間もとれず、いったい何ができるのか。また、イトウのように生活史が長期に渡る種について、短期間で科学的な検討に耐えうるだけのデータの量と質をそろえることは非常に困難であるが、その点についてはどう考えるのか。他にも、カキ等の水産資源や流域の自然環境に関してどのような調査をどのくらいの期間行う予定であるのか。
(九)魚道の効果
 貴職は、事前に当地で実施した魚類調査で絶滅危惧種であるイトウの生息を確認しており、ダムに魚道を設置することで、それに対する配慮としている。これらの魚道について、実際にイトウが遡上もしくは降下できることを確認しているのか、お答えいただきたい。もし確認していない場合、効果が定かでない魚道の設置を、イトウに対する配慮であると説明することはできないと考えられるが、それについてはどうか。

(十)絶滅危惧種イトウに対する認識
 貴職は、別寒辺牛川のイトウ個体群が、道東で唯一安定した個体群であり、当個体群が絶滅した場合、道東地方のイトウはほぼ壊滅状態となることを認識しておられるのか、お答えいただきたい。また、当該事業により、別寒辺牛川のイトウが絶滅する可能性が極めて高いことをどのように認識しておられるのか、お答えいただきたい。さらに、当該事業を進めた結果、もしイトウが絶滅した場合、その責任をどのようにとるつもりなのか、お答えいただきたい。

(十一)既に設置した砂防ダムの扱い
 トライベツ川では既に砂防ダムがほぼ完成しているが、この砂防ダムの必要性が認められない、もしくは、流域の生物や環境、水産資源に与える影響が大きく、ダムの改良や代替案も意味を成さないと検討委員会で結論を下した場合、既に完成したダムを撤去することは可能なのか、また、もし撤去が不可能であれば、その理由を説明していただきたい。

(十二)別寒辺牛川以外の河川で既に設置した砂防ダムの扱い
 別寒辺牛川で建設中の砂防ダムと同じタイプの砂防ダムが、イトウの生息河川である道北の知来別川や道東の風連川でも、貴職により建設されている。今回の検討委員会において、砂防ダムがイトウの存続に影響を与えると結論が下された場合、別寒辺牛川以外の他の地域の砂防ダムも同様にイトウの存続に影響を与えているものと推測される。そこで、今回の検討委員会では、別寒辺牛川以外の砂防ダムの影響についても検討可能なのか、もしそれが不可能ならば、他の河川においても同様に検討委員会を設けてダムの影響を評価すべきと考えるが、そうした計画はあるのか、もしなければ、なぜそうした計画を立てないのか、お答えいただきたい。また、道内各地域で既に設置した全ての砂防ダムについて、その数、設置位置、規模、建設費用を提示し、各砂防ダムの建設の根拠を具体的に説明していただきたい。

(十三)道内各地域の演習場に建設予定の砂防ダム計画について
 貴職は、北海道内の各地域の演習場で、別寒辺牛川と同様の砂防ダム建設を推進していると聞く。したがって、別寒辺牛川で生じているのと同様の問題が、今後他の地域でも生じる可能性があると考えるべきである。そこで、貴職が今後建設予定の全ての砂防ダムについて、その数、設置位置、規模、建設費用を提示し、各砂防ダムの建設の根拠を具体的に説明していただきたい。

以上