イトウ保護連絡協議会

Japanese Huchen Conservation Network

陸上自衛隊矢臼別演習場の砂防ダム問題

2014年度モニタリング調査結果から

神田房行 道東のイトウを守る会代表

 

1 トライベツ川砂防ダムの上、下流域の植生遷移

トライベツ川砂防ダムに開けられたスリットの効果をモニタリングするために「道東のイトウを守る会」ではトライベツ川砂防ダムのスリット化後2007年から継続して調査を行ってきた。2014年度も8月5日(火)に現地調査を行った。植生調査では2008年8月から通算7回目のモニタリング調査を行った。

ダム上流では、河道の両側に植物群落が形成されており安定した群落が形成されてきた。上流部の横堤の始まる所の左岸にはヤチハンノキとケヤマハンノキの群落が形成され、樹高6m前後の森林となっている。ここ数年、樹高はそれほど高くなっていないが、ダムに向かって小群落ができ始め、面積は徐々に増大している。

左岸のダム近くのB地区では以前はぬかるんだ湿地となっていたが、さらに一段と安定した植生となっている。植生としてはダムに向かってオオカサスゲ、ヒロハドジョウツナギ、エゾアブラガヤが優占している。その他クサヨシやホザキシモツケ、ハンゴンソウなどが見られ、より乾燥した立地の植生に移りつつある。また、ハンノキが点在しており、将来、森林に遷移するものと予想される。

右岸側のC地区ではB地区よりもっと乾燥した状態になっており、オオカサスゲやクサヨシ、ヒロハドジョウツナギ、エゾアブラガヤ、ハンゴンソウ、エゾトリカブト、エゾナミキソウなどが混入していた。

図.トライベツ川砂防ダムの上、下流の植生(2014.8.5)

図.トライベツ川砂防ダムの上、下流の植生(2014.8.5)

上流域(A~C地区)
A:ヤチハンノキ-ケヤマハンノキ群落
B:オオカサスゲ-クサヨシ群落
C:オオカサスゲ-ハンゴンソウ-クサヨシ群落

下流域(D~G地区)
D:オオカサスゲ-クサヨシ-ヒロハドジョウツナギ群落
E:ヒロハドジョウツナギ群落
F:オオカサスゲ-ヒメウキガヤ-ヒロハドジョウツナギ群落
G:ヒロハドジョウツナギ-オオカサスゲ群落

昨年よりも更に一層安定し、草丈も高く、乾燥した所に成立する植生になっていた。

ダムの下流では2008年頃から土砂の堆積したところに新たに植物群落が形成され始め、ここ数年更に安定した植生となっており、オオカサスゲ、ヒロハドジョウツナギ、クサヨシ、ミゾソバ、ヒメウキガヤが優先していた。今年も植生はほとんど変わらないが、草丈が一層高くなっていた。

植生としては図のD、F、G地区で植生の範囲が大きくなって、ダム直下の右岸側、ダムに沿った流れは殆ど無くなり、左岸沿いの流れも完全に無くなっていた。D、F、G地区の植生はオオカサスゲ、ヒロハドジョウツナギ、クサヨシ、ハンゴンソウなどであり、水辺ではヒメウキガヤが生育していた。E地点では以前はヒメウキガヤが多かったが、ヒロハドジョウツナギ群落に移行していた。D、F、G地区でも草丈が高くなり、面積も昨年より拡大していた。

また、F地区のダム側には大きな砂の丘が形成されていた。昨年はそれほど大きくはなかったが、この1年で非常に大きな砂丘となっていたのは特記すべきことである。

下流部の流路としてはDとFに挟まれたスリットからの流れが本流となっており、左岸側の小さな流路は完全に消失していた。河川水は図の矢印のように流れており、真ん中の横工で左側に流れるように流路が変えられているが、一部は横工をまたいで流れている。現状ではイトウの遡上に障害とはなっていないが、2本の横工を取り除けば下流部にストレートに流れることとなり、イトウの遡上にとっては水量の点でもよりスムースに遡上流路を確保できるものと考えられる。この横工は防衛施設局により今後撤去される予定と聞いており、速やかな実施が望まれる。


2 風蓮川支流玉川流域第1号砂防ダムと楓沢流域第2号砂防ダムの上・下流域の植生

(1)風蓮川支流玉川流域第1号砂防ダム

風蓮川の支流である玉川流域の第1号砂防ダムのスリットは2011年2-3月に開けられた。今回2014年8月5日(火)にスリット化後の4シーズン目の砂防ダムの上・下流域の植生調査を行った。

下流域ではこの日は水位が非常に高かった。恐らく数日前の大雨の影響であろうと思われる。下流域では昨年5月の調査で、増水による掘削と土砂の打ち上げが起こっているのが分かったが、この状態は基本的には変わっていなかった。ただ、掘削されて池状になったところの面積が増大していた(写真)。更に、昨年の水路は左岸側と右岸側に形成されていたが、今回は左岸側の方の流れが多かった.現状で、イトウの遡上に問題はなさそうであるが、今後、実際にイトウが遡上できるかをモニタリングする必要である。

下流域の周辺の植生はオオカサスゲ、クサヨシ、ヨシ、ヒロハドジョウツナギなどが生い茂っており、昨年とほとんど同じ植生となっていた。

上流域の高い方の平地にはクサヨシが生い茂っていた。ダムよりの一段と低くなっている所は2011年の植生は未発達の状態であったが、今年は2013年と同様にクサヨシ、ヒロハドジョウツナギ、ハンゴンソウなどが繁茂していた。ただ、高い所ではオオアワダチソウなどの外来種もかなり進入していた。水路の法面には植物群落ができており、川への土砂の流出は妨げられているものと思われる。

 

(2)風蓮川支流楓沢流域第2号砂防ダム

風蓮川の支流である楓沢流域の第2号砂防ダムのスリットも2011年2-3月に開けられた。スリットの効果をモニタリングするために楓沢流域第2号砂防ダムの上・下流域の植生調査を行った。

上流域には昨年と同様に安定した、オオカサスゲ、クサヨシ、イヌスギナ、ヒロハドジョウツナギ、ハンゴンソウ等からなる植物群落が形成されていた。ただ、乾燥したところではアメリカオニアザミなどの外来植物が入っているので注意が必要である。下流域ではオオカサスゲ、クサヨシ、ヒロハドジョウツナギ、ヒメウキガヤなどが生い茂っており、昨年と基本的に変化は見られなかった。ここでもオオアワガエリのような外来植物が入っていた。

楓沢流域の第2号砂防ダムの上下流域とも現状ではイトウの遡上に問題ないものと思われる。

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