>北海道森林管理局長通達「イトウ棲息河川上流部における森林施行等の留意事項について」
局長通達の出た背景
阿部幹雄(写真家、オビラメの会会員)
私は道北の地でイトウを撮影のために追いかけて7年になる。
昨年末、私は宗谷森林管理署に伐採による支障木や枝払木が産卵するイトウの遡上を妨げ、泥の流入が産卵環境を悪化させていると指摘して改善策を求めた。
意外にも森林管理署はイトウが国有林内の河川で産卵していることを知らなかった。すぐさま森林管理署は伐採業者へ改善指導を行なったうえで、この冬も伐採は続いた。河畔林を伐採する限り産卵環境への悪影響は及ぶ。河畔林の伐採を禁止しない限り宗谷のイトウは絶滅する。それが私の判断であり、4月になって今度は北海道森林管理局に抜本的なイトウ保護を求めた。
宗谷の国有林を担当するのは北海道森林管理局旭川分局、管内に多くのイトウが生息する河川を抱えている。担当者はイトウ保護の必要性を理解して素早く行動を起こした。
初夏になり小宮山英重さん(野生鮭研究所)と調査すると作業道下流の卵と稚魚は全滅していた。この事実を北海道森林管理局に伝えた。8月末、旭川分局がとりまとめたイトウ保護策を北海道森林管理局は局長通達として出した。川岸から30mまでを保護区として伐採禁止。イトウが産卵、孵化する4月~7月は土木工事も禁止。保護区の外側100mは緩衝区とし、産卵期の伐採を禁止した。イトウの生態に悪影響を及ぼすことをすべて排除する保護策になっている。イトウの遡上を妨げていたこの冬の伐採で沢を埋めた樹木は、伐採をした業者が手作業によって取り除いた。イトウの稚魚が成長し、他の魚が産卵しない8月の時期を選んでの作業だった。
最後の聖域となっている宗谷の国有林でイトウ保護のために具体的な行動が森林管理局によって起されたのだ。
このように迅速な対応がなされたのは、「素敵宇宙船地球号―イトウ 北の森に生きる」(テレビ朝日系列、9月7日放送)を北海道森林管理局が意識したのかもしれない。
北海道森林管理局の組織は、札幌にある道局と旭川、帯広、北見、函館の4分局で構成されている。イトウが生息する河川を多く抱えているのが旭川分局。河川によって産卵する源流が自然林であったり人工林であったり事情が違う。来年春には、組織が変更され道局に集約される。そのため今回の通達は全道を対象としたものになっており、地域の事情を考慮していない。基本的な保護策といえるだろう。
国有林はこういった考え方でイトウを保護するという事実を認識して、現場ではほんとうに通達が守られているのかを私たちは監視する必要があると思う。外部の声に耳を傾ける姿勢は明確なので各地のイトウ保護活動を行なっている人たちが、国有林を見守り、問題があればはっきりとモノを言うべきだ。
なお、対象とする河川は公開しないことになっている。森林管理局は、イトウの生息河川を十分に把握できていないので、私たちが保護すべき河川を教示する必要もあると思う。
ともかく、通達は北海道全域を対象としているのでほそぼそとイトウが命を繋いでいる国有林の河川が守られる一歩を踏み出した。
(2003年9月15日記)