第11回別寒辺牛川水系トライベツ川スリットダム視察報告
視察日:2011年8月16日(火)
天 候:雨
参加者:8名 他報道5名
目 的:矢臼別演習場内のトライベツ川、玉川・楓沢各スリットダムについて現況確認を行なった。特に今回は、夏場の植生調査を行なった。
同日実施の「第3回風蓮川水系玉川流域第1号ダム・楓沢流域第2号ダム視察報告」はこちら 。
ダム堤から上流域を見る。河道は安定している。 | ダム堤から下流を見る。 | 下流左岸。魚道跡の水没コンクリート基礎は完全に土砂で埋没し、左岸沿いの流れは極めて小さくなっていた。 |
下流中央に河道形成のため土嚢が積まれているが、水深の浅い広い水面になっていた。 | さらに下流でも土嚢が積まれているが水深の浅い水面になっていた。 | 下流からダムを見る。 |
▼トライベツ川砂防ダムの上、下流域の植生遷移 ―2011年度モニタリング調査結果から―
トライベツ川砂防ダムに開けられたスリットの効果をモニタリングするために「道東のイトウを守る会」ではトライベツ川砂防ダムのスリット化後に継続して調査を行なってきた。第1回は2007年で、その後毎年2回以上調査を行なってきている。2011年度も5月に引き続き8月16日(火)に2回目の現地調査を行なった。植生調査では2008年8月から通算4年目のモニタリング調査を行なった。
ダム上流では、2009年までの調査では、河道の両側に植物群落が形成されていたが、今回はそれが更に進んでさらに安定した群落になっていた。上流部の横堤の始まる所にはヤチハンノキとケヤマハンノキの群落が形成され、毎年樹高が伸びている。現在では両種とも5m前後ある。2009年の調査でも既に4m位あったので、この2年で樹高はそれほど高くなっていないが面積が大きく増大している。またその南側にも群落が形成されつつあった。上流からダムに向かって左側(左岸)のダム近くのB地区では以前はぬかるみの深い湿地となっていたが、ここ2年ほどで一段と安定して安定した植生となっている。植生としてはダムに向かってオオカサスゲ、エゾアブラガガヤ、ヒロハドジョウツナギが優占しており、その他、水際ではヒメウキガヤやミゾソバなどが見られ、乾燥した岸辺ではハンゴンソウが入っていた。
C地区ではオオカサスゲやクサヨシ、ヒロハドジョウツナギ、エゾアブラガヤの他にハンゴンソウ、オオヨモギ、ケヤマハンノキなどがみられ昨年の調査と基本的には同じような植生であるが、昨年よりも更に一層安定し、乾燥した所に成立する植生になっていた。
ダムの下流では以前は殆ど植物群落が形成されていなかったが、2008年5月から土砂の堆積したところに新たに植物群落が形成され始めた。2008年8月の調査ではダムの近くと左岸付近にヒメコウガイゼキショウやミゾソバ、ミズハコベが小群落をつくっていたが、2009年の調査でもほぼ同じところにヒロハドジョウツナギやクサヨシ、ヒメウキガヤ、オオカサスゲが生育し始めており、植生の遷移がみられた。2010年の調査ではこれらの地域ではオオカサスゲ、ミゾソバ、ヒロハドジョウツナゲ、クサヨシ、ヒメウキガヤが優占して繁茂しておりより安定した群落となっていた。今年は更に安定した植生となっており、オオカサスゲ、ヒロハドジョウツナギ、クサヨシ、ミゾソバ、ヒメウキガヤが優先していた。
今年は下流部で土嚢が積み上げられて流路が変更されていたが、植生としては図のF地区で植生の範囲が大きくなって、左岸沿いの流れが非常に小さくなっていた。F地区の植生はオオカサスゲ、ヒロハドジョウツナギ、ミゾソバ、クサヨシ、アブラガヤ、キツリフネなどであり、水辺ではヒメウキガヤが生育していた。土嚢の端E地区ではヒメウキガヤが群落をつくっていた。その他横堤をまたいでG地区ではヒロハドジョウツナギ、オオカサスゲ、ヒメウキガヤが群落をつくっていた。ここも昨年より植生が拡大していた。
しかしながら植生の見られない所は水深の浅い広い開水面となっており、イトウの遡上の面からは良い環境とは言えない状況である。もっと水路をはっきりさせてイトウが遡上しやすいようにするべきであろう。
植生:神田 房行
作図:元内 孝義
文責:田中 明子