イトウ保護連絡協議会

Japanese Huchen Conservation Network

陸上自衛隊矢臼別演習場の砂防ダム問題

トライベツ川砂防ダムの上・下流域の植生遷移

2013年度モニタリング調査結果から─

北海道教育大学・釧路校 神田房行

 トライベツ川砂防ダムに開けられたスリットの効果をモニタリングするために「道東のイトウを守る会」ではトライベツ川砂防ダムのスリット化後2007年から継続して調査を行ってきた。2013年度も8月12日(月)に現地調査を行った。植生調査では2008年8月から通算6回目のモニタリング調査を行った。

トライベツ川砂防ダムの上、下流の植生(2013.8.12)上流域(A~C地区)
A:ヤチハンノキ-ケヤマハンノキ群落
B:オオカサスゲ-クサヨシ群落
C:オオカサスゲ-ヒロハドジョウツナギ-ハンゴンソウ群落

下流域(D~G地区)
D:オオカサスゲ-クサヨシ-ヒロハドジョウツナギ群落
E:クサヨシ群落
F:オオカサスゲ-ヒメウキガヤ-ヒロハドジョウツナギ群落
G:ヒロハドジョウツナギ-オオカサスゲ群落

 ダム上流では、河道の両側に植物群落が形成されており安定した群落が形成されてきた。上流部の横堤の始まる所の左岸にはヤチハンノキとケヤマハンノキの群落が形成され、樹高6m前後の森林となっている。昨年と比べてこの1年で樹高はそれほど高くなっていないが、樹高、面積ともに徐々に増大している。

 左岸のダム近くのB地区では以前はぬかるんだ湿地となっていたが、ここ数年一段と安定した植生となっている。植生としてはダムに向かってオオカサスゲ、ヒロハドジョウツナギ、エゾアブラガガヤが優占している。その他クサヨシやホザキシモツケ、ハンゴンソウなどが見られ、より乾燥した立地の植生に移りつつある。また、ハンノキが点在しており、将来、森林に遷移するものと予想される。

 右岸側のC地区ではより乾燥した状態になっており、オオカサスゲやクサヨシ、ヒロハドジョウツナギ、エゾアブラガヤ、ハンゴンソウ、オオヨモギ、エゾトリカブトなどが入っていた。C地区ではケヤマハンノキが進出しだし、昨年よりも更に一層安定し、草丈も高く、乾燥した所に成立する植生になっていた。

 ダムの下流では2008年頃から土砂の堆積したところに新たに植物群落が形成され始め、昨年からは更に安定した植生となっており、オオカサスゲ、ヒロハドジョウツナギ、クサヨシ、ミゾソバ、ヒメウキガヤが優先していた。今年も植生はほとんど変わらないが、草丈が一層高くなっていた。

 植生としては図のD、F、G地区で植生の範囲が大きくなって、ダム直下の右岸側、ダムに沿った流れが殆ど無くなり、左岸沿いの流れも無くなっていた。D、F、G地区の植生はオオカサスゲ、ヒロハドジョウツナギ、クサヨシ、ハンゴンソウなどであり、水辺ではヒメウキガヤが生育していた。新たにできたE地点ではハンゴンソウ、クサヨシなどが群落をつくっていた。D、F、G地区でも草丈が高くなり、面積も昨年より拡大していた。

 また、以前は水深の浅い広い開水面となっていた、D地区の下流側には浅瀬も形成されており、今後徐々に植生が発達してくるのではないかと思われた。

 下流部の流路としてはDとFに挟まれたスリットからの流れが本流となっている。これが2本の横工で遮られた形になっており、ダム側の横工で左側に無理に流れを変えられている。現状ではイトウの遡上に障害とはなっていないが、2本の横工を取り除けばF、Gの植物群落に沿って下流部にストレートに流れることとなり、イトウの遡上にとってはよりスムースに遡上流路を確保できるものと考えられる。今後の対策を望みたい。

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玉川第1号砂防ダムの上・下流域の植生遷移

2013年度モニタリング調査結果から─

北海道教育大学・釧路校 神田房行

 風蓮川の支流である玉川流域の第1号砂防ダムのスリットは2011年2-3月に開けられた。今回2013年8月12日にスリット化後の3シーズン目の砂防ダムの上・下流域の植生調査を行った。

玉川流域 下流域ではこの日は水位が非常に高く、コンクリートの水路の上あふれた状態で水路ができていた。恐らく数日前の大雨の影響であろうと思われる。下流域で今年5月の調査で、増水による掘削と土砂の打ち上げ(写真)が起こっているのが分かったが、この状態は変わっていなかった。水路は左岸側と右岸側に形成されていたが、右岸側の方が流れが多いように思われた.水量が多い現状で、イトウが遡上できそうであるが、来年の春に実際イトウが遡上できるかは不明である。今後のモニタリングが必要である。

 下流域の周辺の植生はオオカサスゲ、クサヨシ、ヨシ、ヒロハドジョウツナギなどが生い茂っており、昨年とほとんど同じ植生となっていた。

 上流域の高い方の平地にはクサヨシが生い茂っていた。ダムよりの一段と低くなっている所は2011年の植生は未発達の状態であったが、2013年はクサヨシ、ヒロハドジョウツナギ、ハンゴンソウなどが繁茂しており、安定した植生になっていた。最下段のダムに近いところもイ、ヒロハドジョウツナギ、ミゾソバ、オオカサスゲなどの湿地の植生になって安定した植生となっていた。ただ、オオアワダチソウなどの外来種もかなり進入していた。水路の法面にも植物群落ができており、川への土砂の流出を防げる状態になっていた。

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楓沢第2号砂防ダムの上・下流域の植生遷移

2013年度モニタリング調査結果から─

北海道教育大学・釧路校 神田房行

 風蓮川の支流である楓沢流域の第2号砂防ダムのスリットも2011年2-3月に開けられた。スリットの効果をモニタリングするために楓沢流域第2号砂防ダムの上・下流域の植生調査を行った。

 上流域には昨年と同様に安定した、乾燥した感じの植物群落が形成されていた。ただ、アメリカオニアザミなどの外来植物が入っているので注意が必要である。下流域ではオオカサスゲ、ヨシ、ヒロハドジョウツナギなどが生い茂っており、昨年と基本的に変化は見られなかった。従って、楓沢流域の第2号砂防ダムの上下流域とも現状ではイトウの遡上に問題ないものと思われる。

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