イトウ保護連絡協議会

Japanese Huchen Conservation Network

陸上自衛隊矢臼別演習場の砂防ダム問題

第5回別寒辺牛川水系トライベツ川スリットダム視察報告

視察日:2008年8月23日
天候:曇
参加者:6名
目的:矢臼別演習場内の別寒辺牛川水系トライベツ川スリットダムの現況確認を行った。特に植生とダム堤下流の現況に注目した。

トライベツスリットダム トライベツスリットダム トライベツスリットダム

ダム堤から上流を見る。河道がしっかりと形成され、川底は粒径のやや大きな礫でおおわれている。

さらに上流。流木が一部で流れをふさいでいる所もあった。(魚類の移動は可能) 上流。スリット前はかん水していた所も、スリット後は植生が回復している。
トライベツスリットダム トライベツスリットダム トライベツスリットダム

ダム堤から下流を見る。左側が旧魚道。横工が2箇所ある。

正面左が魚道跡。堆積土砂に植物が進入している。 下流からダムを見る。右奥が魚道跡。左岸側が本流を形成し、水は、横工をすりぬけている。
トライベツスリットダム トライベツスリットダム トライベツスリットダム

右岸側は水流はゆるく、ここも横工をすりぬけている。左岸・右岸の行き来は堆積土砂のためできない。

左が魚道跡。計測者の足元にコンクリート基礎が水没している。(幅100cm、長さ425cm、深さ60cm、コンクリートから水面まで15cm) 下流から横工を見る。小型の魚はすき間を利用できそうだが、少し大きくなると遡上・下降はできない。

写真1
トライベツスリットダム

▼トライベツ川砂防ダムの上、下流域の植生

 トライベツ川の砂防ダムのスリットの効果をモニタリングするために「道東のイトウを守る会」ではトライベツ川砂防ダムのスリット化後、2007年2月16日(1回目)、2007年8月20日(2回目)、同年10月21日(3回目)、2008年5月20日(4回目)の4回、現地調査を行った。今回2008年8月23日に第5回目の調査を行った。ここでは特に第3回目の調査との比較で植生の回復について報告する。調査は午前10:30頃から11:30頃までトライベツ川のスリット化後のダムの上、下流で行った。

 ダム上流では前回までの調査で河道が形成されて河道の両側に植物群落が形成されていたが、今回はそれが更に進んでより安定した群落になっていた。図に示したようにダムから最も遠い自然河道から横堤の入り口にあたるところではヤチハンノキの群落が形成されており、ケヤマハンノキを交えていた(写真1)。樹高は両種とも2.5m以上あり、昨年の調査では樹高が1m位であったので1年間で約1.5m生長したことになる。上流からダムに向かって左側(左岸)では土壌はぬかるんでおり、湿地となっていた。植生としてはダムに向かってオオカサスゲ、エゾアブラガヤ、アキノウナギツカミ群落からイ、アオコウガイゼキショウ群落へと移行していた(写真2)。ダム周辺では裸地になっている所も見られた。右岸側では土壌はぬかるんでおらず、左岸よりも乾燥しており、植物群落もより乾燥した環境に成立する群落であった。横堤に沿ってヨシが生育しており、クサヨシ、ヒロハドジョウツナギ、オオカサスゲ、ミゾソバ、エゾアブラガヤなどが見られた。ただ、牧草として入ってきたカモガヤやオオアワガエリなどの帰化植物も少しではあるが見られた。

 ダムの下流ではこれまで殆ど植物群落は形成されていなかった。今回、前回調査(5月20日)で土砂の堆積したところに新たに植物群落が形成されていた(写真3)。ダムの付近にはヒメコウガイゼキショウやミゾソバが群落をつくり、小型の水草であるミズハコベが小群落をつくっていた(写真4)。他の部分ではヒメコウガイゼキショウやアオコウガイゼキショウ、ミゾソバなど、ミズハコベを除けばダム上流域でみられた植物種と殆ど同じであった。

写真2
トライベツスリットダム
写真3
トライベツスリットダム
写真4
トライベツスリットダム

トライベツスリットダム調査表
▼調査年月日:2008年8月23日
▼天気:曇
▼調査員氏名:(略)

調査地点 水温 水深 川幅 備 考
A1 11 23 295  
A2 11 22 290  
A3 11 11 290  
A4 11 17 200  
B1 11 61 200  
B2 11 82 610  
B3 11 27 610  
B4 11 9 180  
B5 11 27 380  
B6 11 32 320  
B7 11 23 360  
B8 11 27 360  
B9 11 23 310  
B10 11 12 200  
B11 11 18  
B12 11 16  
B13 12 14 500  
B14 12 20 500  

地点番号は、左の図面と対応しています。図面をクリックすると拡大図が開きます。

植生図上面図

▼まとめ

 上流は、昨年(8月・10月)、今年5月の視察時と大きな変化はなく、河道は安定し、大きく蛇行している。植生は、去年よりさらに回復し、目を見はるものがある。周辺域の自然度が高いことと、横工を入れず、自然の回復力に委ねたことが良い結果を生んだのだと思える。

 下流は、5月視察時同様、左・右両岸に流路が形成されているが、左岸が本流をなしている。

 中央部分は5月時より、土砂の堆積がかたまりをつくり、植物の進入も顕著であった。
 2箇所の横工の間を通りぬけ水路ができている為、小型の魚はすりぬけることができても大きめの魚類の遡上・下降はできない状態にある。さらに、スリットダムすぐ下流の水没しているコンクリート基礎に水がぶつかり、右岸に流路をつくっている。このコンクリートを撤去するか砕くと、流路は左岸本流1本になると思われる。

 このことから、来年春のイトウの遡上時までに、全ての横工の撤去ないし、最低でも左岸側の横工を撤去することを強く求めたい。又、コンクリート基礎部分についても、撤去ないし破砕することを求める。

 次回視察は、2009年5月を予定している。尚、植生調査と川の計測は、数年間継続する予定である。

道東のイトウを守る会(植生:神田房行、写真:飯田弘己、作図:元内孝義、文責:田中明子)