イトウ保護連絡協議会

Japanese Huchen Conservation Network

陸上自衛隊矢臼別演習場の砂防ダム問題

2008年9月1日

北海道防衛局長 殿

道東のイトウを守る会
代表代行 神 田 房 行

矢臼別演習場内別寒辺牛川水系の砂防ダム事業に関する質問書

 北海道防衛局は平成18年度に別寒辺牛川の支流トライベツ川の矢臼別演習場内の砂防ダム(トライベツ川砂防ダム)にスリットを設けてイトウ等の魚類の通過を可能にしました。このことはベカンベウシ川のイトウがダムを通過してダム上流の産卵適地での産卵を可能にし、ベカンベウシ川でのイトウの生息・繁殖環境を拡大し、イトウの保護に大きな前進となったことを高く評価しています。

 私たち「道東のイトウを守る会」ではベカンベウシ川の支流トライベツ川の砂防ダムのスリットの効果をモニタリングするためにトライベツ川砂防ダムのスリット化後これまで、4回の現地調査を行ってきました(2007年2月16日(1回目)、2007年8月20日(2回目)、同年10月21日(3回目)、2008年5月20日(4回目))。更に今回、2008年8月23日に第5回目の調査を行いました。

 これまでの現地調査の結果以下のようなことが判明しました。

 砂防ダムのスリット化によりダムの直上流にあった水溜りが消失し、流路が上流から下流に連続的に形成されています。ダム上流部はこれまでの調査で、河道がしっかりと形成され、川底は泥ではなく粒径のやや大きな砂利状の礫で覆われていることが分かりました。川岸には樹高2.5mのハンノキ林も形成されつつあり、安定した自然河川とその流域ができつつあります。

 一方、ダム下流域では第3回目の調査までは、川筋がなく、2本の横工を含めた水域が全体として水没して浅い大きな水溜りができていましたが、第4回目の調査では、ダム下流域では左岸と右岸に沿って流路が形成されておりました。第4回目調査以前には大きな浅い水溜りであったところには砂が堆積し、左右の水路を横断する流れは殆ど無い状況でした。今回、第5回目の調査では左岸の横堤に沿った水路のみがイトウが遡上するための適当な幅と水深を持っているように思われます。しかし、川水は左岸に沿って横工をくぐって流れており、横工が、イトウなどの大型魚類の遡上や通過を妨げることは明らかです。横工がなければダム上流域と同じように河道が自然に形成され、安定した自然河川が形成されるようになるであろうと思われます。

 このような状況から、第4回目までの調査を踏まえて、今年5月22日には貴職に「矢臼別演習場内別寒辺牛川水系のイトウを保護するための要望書」をお届けしました。しかしながら何ら具体的な対策がこうじられた形跡がありません。

 別寒辺牛川水系のイトウ保護のために一刻も早く本種の生息・繁殖環境の復元などの対応をしていただくよう、以下の項目について質問いたします。

 失礼ながら、今年9月16日までに文書で上記窓口宛に本質問に対するご回答をお届け下さい。なお、情報共有の観点から本文書と貴職からの回答書はイトウ保護連絡協議会ウェブサイトに公開いたしたいと考えます。別寒辺牛川水系の絶滅危惧種イトウの生息環境保全のために、どうぞ、一層ご配慮いただくようにお願い申し上げます。

(一)別寒辺牛川水系のイトウなどの大型の魚類の生息・繁殖環境を確保するためにトライベツ川砂防ダムの下流部の横工の撤去を早急に行ってください。特に左岸部の最下流の横工の撤去を最優先にしてください。

 上記のように横工が産卵期のイトウの遡上を妨げることが確実です。来年春の産卵期に間に合うよう横工の撤去をするよう要望します。せっかく砂防ダムにスリットが入りイトウなどの大型魚が通過可能になったのですから横工によってそれが妨げられるとすれば、何のためのスリット化だったのか分からなくなります。

(二)旧魚道口閉鎖に伴うコンクリート土台を撤去してください。

 我々の調査では砂防ダムのスリットを通る河川水は、ダム下流部の旧魚道の入り口の下に残されているコンクリート土台にぶつかって河道が大きく掘れていて大きな水たまりができています。そのため河道が広がって水深が浅くなりイトウのような大型魚が通りにくくなっています。

(三)イトウの遡上を確認するためのモニタリング調査を実施して下さい。

 これまで「道東のイトウを守る会」では自主的にスリット化後のモニタリング調査を行ってきましたが、貴職によるモニタリング調査を実施して下さい。

以上

本要望書に関する連絡先/道東のイトウを守る会事務局


北海道防衛局企画部長「矢臼別演習場内別寒辺牛川水系の砂防ダム事業に関する質問書に対する回答」(2008.9.30)